第47回:今あるもの(打てるボール)で最大の努力をしよう

992年のペブルビーチでの全米オープンは、トム・カイトにとつて盤石な状態で臨んだトーナメントではなかった。それでも優勝できた裏には、彼の強い、忍耐と努力があった。

 そのころ(ここ10〜12年)、カイトはずっと、ドローボールを打つ練習をしていた。ぺブルビーチに来た彼は、過去そこでコースレコードを樹立していたこともあり、どうしても優勝したい試合であった。

 月曜日と火曜日、彼はこのペブルビーチを攻めるためには、ぜひとも必要であるドローが打てなかった。彼のボールはプルカットか、プッシュフェードしか出なかった。彼はイライラしていた。

 ショットの調子が最悪だったのだ。スイングティーチャーのチャック・クックが来る予定であったが、何の連絡もないまま現れない日が続いた。

 彼は怒っていた。火曜日に私は、
 「トム、そろそろ時間だよ。今週、まだ打つことのできないドローを練習するのか、今のカットショットを受け止めて、それとともにコースをプレーするのかを決めるときだよ。ドローボールを打つことと、今週の全米オープンに優勝することの、どっちが重要なんだ、トム」
といった。
 「当然、優勝することです。博士」
 「それでは、ドローを打つことは忘れよう。そして、このカットショットを使って優勝する手だてを自分で見つけてきたらどうだね」
 「強風でラフが深い中を、低いドローが打てれば、このコースを攻めやすいのですが……」
 「それはそうだろうが、今週に限つては、そのショットが打てないのだから仕方ない。今のショットで攻めるしか方法はないのだ」

 水曜日の朝には、彼は納得し、「スイングのことは考えないで、このボールをカップインさせる方法を見つけてくる」といえるようになった。さらに私は彼にいった。

 「白分を信じ、勝っためにしなければならないことを、やり通すことが必要なんだ。スイングがどうであれショットがどうであれ、勝つために必要なことをやり通す。ドローを打てるに越したことはないだろうが、今あるもので最大の努力をするのだ。スコアを縮めるために必要なことを」

 それを彼が、実現したのだ。私がトムにいったのは、それだけである。実現のためには、忍耐と決意が要求されたのだ。