平成15年度 博士論文要旨

論文題目:第二創業としての新市場進出とそのリスク・マネジメント

   ― 中国における「Image Golf School」の展開 ―

 

英文題目: Marketing and risk management for second-foundation

― Study for introduction of the Image Golf School in China ―

 

                 コース名 起業家コース

                     学籍番号 1048001

                  氏  名  大東将啓

                      Masahiro Ohigashi

内容の要旨

 

 近年、先進諸国における経済成長の減速の中、日本は長引いている不況に見舞われている。一方、経済の国際化が加速しているなか、中国は世界の工場から世界の市場へのなりつつある。このような時代の流れに順応し、世界経済秩序の変化をチャンスに、第二創業をよりグローバル的模索しようという考え方を基に、筆者は20009月から高知工科大学起業家コースにて第二創業をテーマとして研究を行ってきた。そして、3年間の研究と自らの実践を基に、本論文を完成した。そして、論文内容の要旨は以下の通りである。

 

研究の目的

筆者はアドバンス開発株式会社という住宅展示場の運営会社を経営していると同時に、ゴルフティーチングプロとして、ゴルフ練習場の経営にも携わってきた。しかし、日本の住宅産業とゴルフ産業は長期不況によるダメージは大きい。筆者は本業のコンサルティングサービス業とゴルフ産業から蓄積した経験に、起業家コースでの研究を加えて「Image Golf School」の中国での展開をビジネスモデル化することを本論文の目的としている。

現在までに中国に進出した企業数は数多く存在する。大企業に留まらず中小零細企業に至るまで、その数は統計上の数字に表れないところに至るまで存在すると考えられる。しかし、欧米企業と違って、市場としての中国に対する認識が薄く、その多くは、いわゆる『ユニクロモデル』と言われるところの安い労働力を生かした生産工場としての位置付けがほとんどである。本論文では、市場としての中国を重要視し、中国における産業高度化の進展にあわせて、サービスシステム、管理システムの輸出を内容とするサポートマネジメント業の中国での創立を研究テーマにしている。これによって、一方、今までの『ユニクロモデル』以降の新しい形での中国進出モデルの可能性を追求する。さらに、中国でゴルフ市場を研究分析し、上海でのゴルフスクールビジネス実践を通じて、社会主義市場経済下でのサービス産業のあり方を提言する。他方、日本国内で斜陽産業化してきた住宅産業に従事して、企業存続のための残された選択としての第二創業を研究実践することが、高知工科大学起業家コースの果実であると考える。また、中国沿岸地域の地方政府自治区の多くは、税金特例等の各々の優遇事例を提示して、外資の投資、工場誘致や合弁事業等に熱心である。しかし奮騰する中国経済とは裏腹に、事業に失敗して撤退を余儀なくした企業の例も枚挙に遑がない。本論文では、中国進出の成功例と失敗例を検証して、その違いを分析してリスク管理手法を提言する。これにより今後の中国進出企業への助けとなるものと期待できよう。

 

研究の視角

本論文は以下の3つの視角から分析を行っている。第一は、第二創業による事業推進の理論とリスク・マネジメント理論の視角である。経済のサイクルが大きく短くなった現代では、起業よりも、第二創業による事業の推進効果が注目されてきた。本論文はまずこの第二創業とリスク・マネージメント理論の発展の視角から、「Image Golf School」の中国での展開の可能性を理論的に検討する。第二は、新市場としての中国におけるゴルフ産業化の可能性の視角である。ゴルフ産業化の理論と世界ゴルフ産業発展の歴史を根拠に、中国におけるゴルフ産業化の条件を検討し、さらにゴルフスクールの展開の可能性と必要性を究明する。第三は、ケーススタディーとして、「Image Golf School」というビジネスモデルの視角である。筆者はコンサルティングサービス業とゴルフスクール産業での実践を基に、「Image Golf School」の構想を形成し、その実態も完成させている。最後に、それを中国の事情に適応できるようなモデルまで完成させる。

 

研究の独創性と意義:

筆者は20年にわたり米国でのゴルフスクールビジネスを研究してきた。米国プロゴルフ協会(Professional Golfers’ Association of America)のビジネスプログラムに幾度となく参加してきた。またTeaching & Coaching Summit にも参加した。米国ゴルフ財団主催のTeaching & Coaching Seminar では、日本人ティーチングプロの参加者のためにコーディネーターとして通訳を担当してきた。また米国を中心としたゴルフスクールビジネスを取りまとめたものを、日本の市場に導入してきた経緯がある。そして、社団法人全日本練習場連盟の指導委員長として指導者を教育する仕事をしてきた。これらの研究と経験は本研究の独創性をもたらした。

筆者は、1987年の日本ゴルフ学会発足当時からその設立にかかわり、研究発表も重ねてきた。ゴルフスクールビジネスに関する研究は、技術研究に比べて数少ない。その意味では、ゴルフ界に於いてスポーツ経営学の持つ意味は大きく、今後の研究が必要とされている。特に中国市場に対してのゴルフ産業論に関する研究は皆無に等しい。本論文では、中国語のゴルフ専門誌や雑誌も含めて文献研究も重ねてきた。また中国ゴルフ協会の秘書長である崔志強氏をはじめ、世界最大のゴルフ規模を誇るミッションインゴルフクラブの会員部主任の方孝元氏、上海大都会ゴルフ倶楽部の総経理である王亜明女史、広告代理店BBDOの上海支店マネージャーの除振伜氏と黄健氏、中国人女子プロ第一号者の葉莉英女史、男子プロの朱プロ、上海光明ゴルフ倶楽部の総裁である段康滋氏、総経理の原田行氏、上海太陽島国際ゴルフ倶楽部の副総経理である張玉英氏他、多くの人々からインタビューをすることができ、その内容が本研究の独有の実証資料となっている。

また、米国のゴルフスクールビジネスについても、トップ100ティーチングプロを中心としたプロ達にインタビューを実施してきた。それら有名なティーチングプロから学んだものを体系化して研究してきたものは、すべて独自な試みである。

 

論文の構成と内容

本論文は8章から構成される。具体的に以下の通りである。

 第1章は研究の背景、目的、意義と概要を説明したものである。

 第2章は第二創業による事業推進の理論である。この章では、現代の起業形態の発展と日本における起業実態を研究し、その特徴から第二創業の台頭の必然性を明らかにしていく。さらに、第二創業による事業推進の理論的根拠とその優位性を、理論分析の展開と実例による実証の展開といった二つの側面から究明していく。

 第3章は第二創業における危機管理とリスク・マネジメントの理論である。この章において企業における危機管理理論とリスク・マネジメントの理論を基づき、新しい経営環境の中で第二創業におけるリスクの発生と特徴を究明し、そのヘッジの方法を模索していく。

 第2、3章の理論をもとに、第4章から異分野・新市場進出による第二創業の事例考察を行う。第4章は現実における第二創業の必要性に関する検討を重点としている。この章において、本業としての住宅展示場事業を事例として、その変遷と現状についての分析通じて、現状の厳しさを明らかにし、現実的に第二創業の必要性を明らかにしたい。

 第5章は異分野としてのゴルフ事業をテーマに、ゴルフ産業発展の歴史及び日本ゴルフ産業の現状についての分析を通じて、ゴルフ産業の行方を追及し、中国への進出の意義を解明していく。

 第6章は新市場としての中国についての考察を内容とする。中国の改革開放の推移と現状についての検討を通して、その特徴を明らかにし、第二創業の拠点として選択する根拠を見出す。

7章において、中国におけるスポーツ政策の変遷による中国ゴルフ発展とゴルフ産業化の歩みを分析し、その発展の前景を予測し、本論文の結論としての「Image Golf School」導入の可能性、必要性とその適応性を見出て行く。

 第8章は「Image Golf School」構想の形成過程と沿革を説明し、中国での適応性を検討し、「Image Golf School」の中国展開による第二創業ビジネスモデルを具体化する内容となっている。

 

本論文の結論

本論文において、明らかのしたことは、以下の3点にまとめる。

以上第1章から第8章まで、第二創業としての「Image Golf School」が中国における展開を、第二創業の理論研究と事例考察の二つの側面から分析を行ってきた。ここでは、全文を総括して、明らかになってことを以下の三点にまとめる。

第一に、第二創業による事業推進の理論及び第二創業におけるリスク・マネジメントの理論についての研究を通して、第二創業が企業を存続させ、活性化するための有効手段であることが明らかになった。

起業論やベンチャーリングに関する理論の先行研究や第二創業の成功事例から、第二創業によって、経営の自由度を向上させ、事業の複合化によるビジネスチャンスの拡大及び多角化の派生効果などの第二創業による事業促進の優位性が証明できる。それと同時に、第二創業の成功要因として、資本集約度が低く且つ成長産業への参入、技術ノウハウの保有、競争相手と差別化された商品の扱いなどが明確である。こういった成功要因を取り揃えることが第二創業の成功率を高くする。それと同時に、第二創業が企業経営過程における一種のリスクヘッジ手段である当時に、第二創業に独特のリスクも存在するため、そのリスク・マネジメントも必要である。

第二に、「Image Golf School」の中国における展開の事例研究を通じて、第二創業として、スポーツコンサルティングサービス事業としての「Image Golf School」が新市場の中国への進出の可能性と実行性を論証した。

長引く日本経済の不況のなかで、特に日本住宅産業の落ち込みを背景に、筆者の本業である住宅展示場事業は非常に厳しい局面を迎えている。対策として、筆者のゴルフティーチングプロとしての経験や技術ノウハウを生かし、IT技術を活用する新型ゴルフスクールを構想した。一方、経済が世界規模で動いている現在、第二創業の拠点も必ずしも日本国内に限ることはない。むしろ、ここ十数年間に飛躍的な経済成長を遂げてきた中国にはその市場がある。急速に発展している中国において、スポーツの産業化が急速に進んでいるにつれて、ゴルフ産業化も動き出したところである。そのなかで、中国のゴルフ産業化によって、スポーツコンサルティングサービスに対するニーズは非常に大きい。このような事情はまさしく「Image Golf School」の市場を生み出している。このような成長産業である中国スポーツサービス産業への進出は市場の面からみて成功率が高い。

第三に、第二創業としての「Image Golf School」のモデルはシステム・ソフトの輸出モデルである。日本は中国への進出において、物づくりを行うことによるコストダウン型の「ユニクロ型」が主流であった。しかし、現在「もの」の交流(物の輸出や現地生産)より、日本企業のノウハウの活用による「こと」の交流への方向転換が、今後中国と日本のビジネス交流の方向性である。その代表的なものとしてコンサルティングサービスやスクールの展開などの市場がある。「Image Golf School」はまさしく、日本のゴルフスクールのノウハウ、日本のコンサルティングサービスのノウハウを活かし、ゴルフ技術をゴルファーに教えるだけではなく、スポーツライフスタイルの提供も行う総合的なシステムの輸出である。当然、国際経営上の視点として、文化や商慣習等の違いからビジネスモデルの修正を余儀なくされることもあると思われる。この論文の中で見てきた第二創業の実例からも実証されたように、絶え間ないイノベーションを企業活動のなかで実行していくことも非常に重要であると考える。

この「Image Golf School」の事例研究が今後の日本企業存続の一スタイルの提案となることを期待している。

 

http://www.kochi-tech.ac.jp/library/

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