秋山 真邦の世界
1952年、京都生まれ。同志社大学卒。在学中から写真 家として活動すると同時に、企画、編集、旅行ルポなどの分野でも活躍。やがて、趣味のゴルフが嵩じて、スコットランドまで何度も出かけ、『ゴルフのふるさとを訪ねて…セント・アンドリュース』(京都書院)を出版。その後も、ゴルフ写真集を数冊企画・出版しているほか、毎年セント・アンドリュースにおもむき、公式カレンダーの撮影・製作・発行を続けている。現在、神戸ゴルフ倶楽部100年誌、箱根カントリー倶楽部50年誌、交野カントリー倶楽部30年誌の撮影及び編集を手掛けている。
ジュニア教育に創意工夫を。セント・アンドリュースから学ぶこと
セント・アンドリュースのオールドコースでは、11月から3月あたりまでの冬季、フェアウェイ上は人工芝のマットを使ってショットするよう求められます。確か前回の全英オープンの頃からではなかったかと記憶するので、もう5、6年は実践しているのではないでしょうか。
プレーヤーに評判が悪いのは当然のことですが、ちょうど新芽が芽吹く時季でもあり、フェアウェイの緑を守るための止むを得ない措置ともいえます。リンクス・トラストも、冬季に訪れる熱心なプレーヤーたちの不平をおしても、オールドコースの完璧なメンテナンスを優先させているようです。
ところで、この光景を目にしたとき、本場スコットランドのコースにはまるで似合わないと思ったのと同時に、別のことに応用できないかとも考えました。例えば、ビギナーやジュニア育成に際しての利用です。
日本のゴルフクラブでも、最近はジュニア教育に熱心になりつつあり、プレーフィーを低く抑えるなどして、ジュニア向けにも解放する傾向が増えています。しかし、その場合に、クラブの担当者が憂慮することは芝の傷みのようですから、ここで人工芝マットを利用すれば、その心配は解消されるでしょう。
これはちょっとした思いつきでしかありませんが、プロのタイトル獲得を含めて欧米とのゴルフ文化の差異の大きさを感じるにつけ、ジュニア教育の大切さを痛感する次第です。とくに私は、セント・アンドリュースに何度も行っていて、人とゴルフの理想的な関係を見ているものですから、彼等のジュニア教育の違いには愕然とします。歴史が違うのは確かなのですが、その歴史をうめるためにも、ジュニア教育に限らずゴルフのいっそうの普及のためには、それなりの工夫が必要だと思います。
セント・アンドリュースでは、オールドコースを含めて5つの本格コースがあり、そのなかにはビギナー向きのコースもあるほか、ショートコースやパッティングコースまで揃っています。セント・アンドリュースに住む子供たちは、小さな頃からこれらのコースを通じて順々にゴルフに親しんでいくのです。町のすぐ脇に数多くのゴルフコースが広がるセント・アンドリュースと同等には論じられませんが、日本のクラブでもそのあたりの工夫を望みたいものです。
無断転用禁止
ロイヤル&エンシエント(R&A) ゴルフクラブを正面から望む。現存する最古のゴルフクラブのひとつであり、全英オープンを主催し、ゴルフのルールや用具等についてアメリカゴルフ協会とともに4年に1度改訂する、ゴルフ界の最高権威でもある。
ロイヤルの名の通り、イギリス王室がパトロンになっており、メンバーになることは特別の栄誉といえる。
オールドコース1番ティの背後にたたずむ重厚な白亜の建物は、それ自体が文化遺産的な値打ちがある。
ただし、建物内部に入ることができるのはメンバーか、メンバーが招待したゲストのとなっている。
インデンコースの2番ホール。イーデンコースはオールドコースの南西隣、イーデン川の河口に面して広がっている。1914年の創設で、オールドコース同様に自然のままのリンクスだが、リンクスコース特有の大きなうねりや地獄のようなバンカーは少なく、地元民やジュニアゴルファーがよく利用している。ちなみに、セント・アンドリュースにはオールドコースをはじめ、本格的なゴルフコースが5つあり、さらに新しく1つのコースが建設されている。なお、新しいコースは難易度が低く、ジュニアゴルファーの育成が大きな目的といわれている。
オールドコースホテルから17番フェアウェイを望む。
このあたりは春夏秋冬だけでなく、一日の天気に変化も激しく、晴れていても突然、にわか雨が振ったりする。この日も同様で、太陽が出ているのに球に一ひと雨あり、そのために目の前に虹がかかって見えた。なおこの17番ホールは、ティショットがホテルの敷地越えのうえ、グリーン奥に道が通り、グリーンをえぐるようなロードホールバンカーにつかまる可能性も高い。
オールドコースでも屈指のタフなホールとして知られ、全英オープンでも数々のドラマを生んできたことで知られる。
1番と18番のフェアウェイを横切る小川をスウィルカンバーン、そこにかかる石橋をスウィルカンブリッジという。
18番でティショットをしてスウィルカンブリッジを渡るのだが、このときばかりは全英オープンに出場した選手の気分で渡りたい。
ちょうど18番の右サイドはセント・アンドリュースの街で、普段からゴルフ好きの町民たちが白いOB柵にもたせかけて、ゴルフ見学と洒落こんでいるから雰囲気もぴったりだ。
また、セント・アンドリュースはスコットランドを代表する古都で、重厚な石造の建物が立ち並び、街歩きをするのも楽しい。
オールドコース5番ホール、フェアウェイ横の土手からのセカンドショット。最初に訪れるロングホールで、特有の小さなポットバンカーが点在する。この土手の奥は14番フェアウェイで、5番グリーンは13番のグリーンでもあり。オールドコースではグリーンもフェアウェイも共有になっている。コースレイアウトが「行って(Going
Out) 帰る(Coming In)」スタイルになっているからで、アウト・インの名称もここからきている。
オールドコースではキャディは1人のゴルファーに1人つき、プロのトーナメント気分が味わえる。
夕景のイーデンコース9,10,18番ホール。
地元プレーヤーは、オールドコース以外のすいているコースを、セルフでのんびりとラウンドする場合が多い。
しかも、この人たちの多くは犬の散歩を兼ねてゴルフをしている。
セント・アンドリュースの人たちにとって、ゴルフとはそれだけ身近で気軽な存在なのである。
ゴルフをせずに、散策するためだけにコースを訪れる人も多い。
海辺にあって近くに山のないセント・アンドリュースでは、太陽はつねに水平線・地平線から出て、遠くの丘へと没する。そのためか、朝焼けと夕焼の美しさはなにものにも変えがたい。
ロイヤル&エンシェント(R&A)ゴルフクラブの俯瞰。1745年創設の世界で最も著名なゴルフクラブで、1834年にロイヤルの名が冠せられ、王室がパトロンにつくようになった。世界のゴルフフルールの改訂は、このR&Aとアメリカのゴルフ協会(USGA)の協議で決められるほどの権威がある。その建物のすぐ先に海が広がっているが、スコットランド古来のリンクスコースはいずれも海辺にあって、海からの強い風と海沿いのうねった地形があってこそ、ゴルフが誕生したともいわれている。
18番ホールのフェアウェイにかかるスウィルカンブリッジ。北緯56度と高緯度のためか陽の光はあくまでも柔らかく、淡い朝陽がR&Aやその右手のハミルトンホールをやさしく照らし出している。コース右に連なる白い棚はOBラインになっているが、道路のガードレールでもあり、これを隔ててセント・アンドリュースの街が広がっている。つまりオールドコースは、郊外にではなく、街とともに街の人たちに支えられて歴史を生きてきたのである。さて、この橋を意気揚々と渡るかはその日のプレイ、あるいは18番のティショット次第かもしれない。
ニューコースの10番ホール。「ニュー」といっても「オールドコース」に比べての話で、1896年創設とその歴史は古く、オールドコース同様に自然のままのうねりをいかしたリンクコースだ。2人のプレイヤーが右のラフを歩いているのは、ここに打ち込んでしまったボールを探してのこと。リンクスのラフはとても深く、ロストボールの可能性も高い。しかも、フェアウエイのすぐ横が深いラフで、「天と地」の落差を感じさせる。なお、ゴルフ競技は本来マッチプレイからはじまっており、スコットランドではいまでもその伝統を守ってマッチプレイを楽しむゴルファーが多い。
ニューコースの5番、180ヤードのショートホール。グリーン周りは、地元の人たちが「GORSE(ゴース)と呼ぶ灌木が生い茂っている。開花シーズンの4月〜6月には黄色く可憐な花が咲き乱れる。見た目には美しいが、ここにボールを打ち込んでもしたら「アンブレアブル宣言」は確実といえる。ふだんはグリーンのセンターあたりにピンを切っていて、それほど難しいホールではないが、グラブ競技ともなれば端に寄せてピンを立てる場合が多い。そうするとバンカー越しのうえに、奥も狭いという最難度のホールに変貌する。それを地元プレイヤーは果敢にトライしてくる。
抜けるような青空に白い雲が浮かぶ夏真っ盛り。R&Aもハミルトンホールも光に照らされ、輝いているように見える。セント・アンドリュースの夏は最高気温が22、3度で、25度まで上がることはめったになく、湿気もほとんどなくて快適なゴルフが楽しめる。とはいえ、全英オープンのテレビ中継を観ていればわかるように、こんな夏らしい光景はつかの間のこと。スコットランドの夏は「1日に四季がある」といわれるほど天候の変化が厳しい。突然のように風が吹きはじめ、あるいは雨粒が落ち、セーターを着込まないと凍えそうなほど気温が低下したりする。
オールドコース2番ホールを望む。フェアウェイの真ん中にポッカリ開いているのはチープスバンカー。オールドコースではこのように、絶好の位置にポットバンカーが待ち受けていたりする。ミスショットでハザードに捕まるのはあきらめもつくが、フェアウェイのセンターに飛んだのがキックの加減でとんでもない結果をもたらす場合がある。そういう意味では、運不運が大きく左右するスポーツなのだ。しかし、「それがゴルフの醍醐味さ」と笑い飛ばすのが、スコットランド人の大らかさ。ちなみに、キャディバッグを自ら背負ってプレイをするのもスコットランドの流儀。
夕陽に照らし出されたR&A.。正面だけが光に当たって美しく輝いている。その左の小屋はスターターボックスで、ここから呼び出されて1番ティに立つ。つまりは世界最古のゴルフコース。ゴルファーなら一生に一度は回ってみたいオールドコースのトライがはじまるのだ。R&Aを背に最初のティーショットを放つ感激はいかばかりか!ともかくもゴルファー冥利に尽きるというもの。なお、右下のプレイヤーは18番ホールのグリーンで最後のパットを決めようというところ。18番ホールをスルーでラウンドするのがオールドコースのみならずスコットランドのプレイスタイル。