最後のメジャー、全米プロを取材。
95回全米プロは、ロチャスター、ニューヨークにある名門オークヒルCCで開催されました。 4大メジャーの最終戦で、PGAアメリカの主催競技です。 ニューヨークJFK空港から国内線でロチェスター空港まで1時間半あまり。 関西からニューヨーク直行便がないので、乗り継ぎ時間も入れて20時間弱の移動時間となります。 ロチャスター空港には、ディフェンディングチャンピオンのローリー・マキュロイの大きな表示やトーナメント開催看板があり、 トーナメント雰囲気一色となっていました。 今まで、マスターズや全米オープンなどを見てきましたが、全米プロの取材は初めての経験です。 今回は雑誌社からのメディア登録が出来たのと同時に、日本プロゴルフ協会員であればアクセスできる特権があります。
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脱力派、ジョンソン・ダフナーが優勝!
予選を松山英樹プロと一緒にラウンドした、ダフナーが優勝しました。 以前、小学校をイベントで訪れた時に、壁に横たわっている姿を公表されました。 マキュロイなどが、その姿を真似したことから「ダルナリング」という造語がうまれました。 力が抜けたような姿が、ダフナーの固有名詞となったのです。 ダフナーのスイングは個性的なワッグルから始まります。 バックスイングを始める前に何回もクラブヘッド前後にさせるのです。 これは、ジュニアの時からのダフナーが作り上げたスタイルです。 グリッププレッシャーが、柔らかいことを示している癖でもあります。 最終日のアイアンショットがピンに絡んでいったのも、柔らかいグリップがあったからでしょう。 下記にて、世界のトップのスイング動画をお楽しみ下さい。
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スーツケースがロスト!?
国際線の出発が遅れたために、ニューヨークJFKからロチャスター空港への乗換えがギリギリになりました。 JFK空港内は大変広く、モノレールを乗り継ぎ、どうにか間に合いました。 乗り継ぎ時間がギリギリだった為に、案の定スーツケースがターンテーブルから出てきません。 「旅とゴルフは、トラブルがつきもの。 まさに人生そのもの。」 そんな教訓を思い出し、「しょうがないなあ〜」と気分を切り替えました。 航空会社の事務所に行き、宿泊ホテルにロストした荷物を届けてもらうように手続きをした後、レンタカーでトーナメント会場に向かいました。 ゴルフ場まで着きましたが、入ることが出来ません。 指定の駐車場まで運転しなおし、夜の11じまで運行しているシャトルバスに乗り込みました。 |
ツタのからまるクラブハウス。
名門オークヒルCCは、おごそかな雰囲気のクラブハウスが似合います。 アプローチの芝生はグリーンのように刈り込まれ、 ツタのからまるクラブハウスを見事に浮かびあがらせて、 アプローチを歩く選手の雰囲気を高まらせます。 1901年開場の歴史ある36ホールです。 今回の全米プロは、東コース、全長7163ヤード、パー70のセッティングです。 |
練習日から毎日1万人を越えるギャラリーが観戦に訪れます。 メインゲートには、優勝トロフィーと、タイガー・ウッズ、ロリー・マキュロイ、フィル・ミケルソン、アダム・スコットの4大スターの巨大看板が掲げられています。 木曜日からのチケットは、全て売切れです。 毎日4万人の超えるギャラリーが訪れるのです。 日本では「チケットを貰ったから!」とトーナメントに行くギャラリーが少なくないなか、 安くないチケットを自ら購入するギャラリーが毎日4万人を超えるなんて!? そんな疑問が、トーナメント開催中に解けてきました。
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全米プロシニア優勝者のローリー・マキュロイと井戸木鴻樹プロの巨大顔写真が並んでいました。 今年の全米シニアプロ優勝者としてこのメジャーの出場権を獲得したのです。 初日、2番から4連続バーディーで一気に4アンダーとロケットスタートしましたが、 その後4ボギー、1ダブルボギーとなりトータル2オーバー72、 二日目76、トータル8オーバーで予選落ちとなりました。 各ホールでは、「Idoki
!!」と声援が起こっていました。 167センチ62キロの小さな巨人が繰り出す、 正確なドライバーショットに拍手が鳴り止みません。 井戸木プロのアメリカでの人気に改めて驚いた次第です。
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全米プロの会場となるオークヒルカントリークラブは、1901年開場の名門コースです。 毎年場所を移して行われる米国の男子主要競技(全米オープン、全米シニアオープン、全米プロ、全米プロシニア、全米アマ、ライダーカップ)の全てを開催したことのある唯一のゴルフクラブ。 東西合わせて36ホールあるオークヒルの東コースで開催されました。 7193ヤード、パー70のセッティングで、 17番509ヤード、18番497ヤード(共にパー4)が難易度の1番2番となっております。 |
選手用の駐車場には、PGAのマークが付いたベンツが並んでいます。 出場選手全員に1台ずつ、貸与される「オフィシャルビエクル」です。 クラブハウスに一番近い所は、歴代優勝者の名前が入ったスポットとなっております。 毎日4万人を超えるギャラリーの為にコース周辺のいたるところに駐車場が用意されており、シャトルバスがコースまで運行されています。 メディア用の指定駐車場は、近くの大学用地に用意されていました。 シャトルバスの運行時間は、朝の6時から、なんと!夜の11時まで。
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フェアウエーが狭くうねっており、深いラフが待ち受けます。 「フェアウエーに置くことが第一」と優勝したジョンソン・ダフナーがコメントしてた通り、ティーショットではドライバー以外を使う選手が多かったです。フェアウエイにクリークが横切る461ヤード、パー4も、フェアウエイがうねっており、ティーショットの正確性が要求されます。 フェアウエイの中心から白く光っている芝生と色の濃いのは、芝生を刈る方向で出来た現象です。 ゼブラ状で交互に芝生を刈るのではなく、フェアウエイの中心が明確に分かると同時に、白く光る芝生が順目になっているので、狙い目となります。 フェアウエイから打つショットは、ピンを刺すような見事なナイスショットが見られることが多いのです。 最高の舞台と目の肥えた観客が、選手達のミラクルショットを引き出しているようです。
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練習日には、コースのあちこちでティーチングプロの姿が見受けられます。 2010年からタイガー・ウッズのコーチを務めているショーン・フォーリー。 他にもジャスティン・ローズ、ショーン・オヘア、ハンター・メイハン、パーカー・マクラクリンなどの超トッププレイヤーの指導に携わり、結果を残しています。 ショーン・フォーリーの理論は、体重移動を行わないことを理想としています。 アドレス時に上半身の前傾姿勢を深くとります。 体重の55%を左足加重とし、スイング始動からインパクトまでの間には、体重配分の80%を左足にかけながらスイングすることを推奨します。 左1軸でスイングするイメージですね。 右足に体重を移動させるという発想がないものは、従来のゴルフ理論ではあまり考えられなかったものです。 当然、体重移動を行わなければ飛距離は落ちます。 しかしながら、インパクトの正確性と再現性という視点からは理にかなっているものです。 「左右に体を揺さぶって打つと、インパクトでクラブを正確に戻すことが難しくなる。スイング中は左の軸に意識を集中し、右足で地面を蹴って球にエネルギーを伝える方法がより効率が良く確率が高い」とコメントしています。 さらにラウンド中、ミスしたとき大袈裟に悔しがるのは「エネルギーの無駄使い」と断言。 「ミスした時はサラッと流し、なかったことにした方がその後のプレーに支障がない」と言っています。 |
今年のオークヒルCCから、2018年までの開催コースの看板が続きます。 来年は、ケンタッキー州のバルハラゴルフクラブ。 ジャック・ニクラウスが設計して1986年に開場した比較的新しいコースです。 これまで1996年全米プロゴルフ選手権の他、2008年にはライダーカップも行っており数々の名勝負を生み出してきました。 2011年には、全米シニアプロ選手権が開催されトム・レーマンが優勝しています。
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ゴルフ場の会場内には、大型テントが設営されています。 その1つがゴルフショップです。 テニスコートが6面入るような巨大テントです。 2013年PGAチャンピオンシップのロゴ入りの商品で一杯です。 練習日から多くのギャラリーが訪れています。 最終日には、ほとんど全ての商品が売り切れているほど盛況でした。
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今回のタイガー・ウッズは、さえません。 前週のWBCブリジストンインビテーションナルでぶっち切り優勝をして、 注目度ナンバーワンです。 しかし、今回は、初日71から、70、73、70、通算4オーバー40位タイと優勝争いに一度も絡むことなく終わりました。 10年前のオークヒルCCから、一度もこのコースでアンダーを出すことが出来ない結果となりました。 どんなに調子が悪くても、メディアとギャラリーのフォローは、ダントツで多いです。 多くのギャラリーを引き連れ、コースの何処に居ててもわかります。 まるで映画スターのような、そんな扱いでした。
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「ダフナリング!」と地元新聞に大きく出ていました。 全米プロを優勝したジェイソン・ダフナーから出た言葉です。 小学校を慰問した時に、両足を投げ出し、だるそうに壁に寄りかかる写真がメディアに掲載されました。 それをプロゴルファー達が悪戯に真似した姿をツイッター上にアップしたことから、 「ダフナリング」として一躍ゴルフ場外で「脱力系プロゴルファー」として時の人となりました。 アドレスに入ってから、大きなワッグルを3〜8回、前後に繰り返してからスイングが始まります。 その後、流れるようバックスイング、そしてレイドオフのコンパクトなトップオブスイングから滑らかなダウンスイングにはいり、 そして脱力系のフィニッシュと一連のスムーズなゴルフスイングをしています。 お茶目で脱力系プロのダフナーが、「ダフナリング」と共に一躍有名になりました。
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アドレスに入ってから、大きなワッグルを3〜8回、前後に繰り返してからスイングが始まります。 その後、流れるようバックスイング、そしてレイドオフのコンパクトなトップオブスイング(黄線)から滑らかなダウンスイングにはいり、そして脱力系のフィニッシュ(緑丸)と一連のスムーズなゴルフスイングをしています。 「私は、野球をしながら育ってきており、バッターボックスでじっとしているよりは、ピッチャーが投げる前から動いている方がヒットを打つことができていた。ワッグルは、ゴルフのスイングにおいて、それと同じ役割があると思う。リラックスできるし、ボールを打つ準備となるのだ。」とコメントしています。 グリップの握りが柔らかいからこそワンピースで力みのないゴルフスイングとなっているのでしょう。 また、上半身の深めの前傾姿勢を取ることで、それを軸とした回転運動のゴルフスイングが、正確なショットを生み出しています(白線と青線)。 感情を出さずに淡々とプレーする脱力系ダフナーが、「ダフナリング」と共に今後も注目されることとなるでしょう。 |
13番は、598ヤード、パー5です。 クラブハウス前にグリーンがあるために、多くのギャラリーが観戦しています。 背丈の高いギャラリーに囲まれると、プレーを観戦することが出来ません。 ティーインググラウンドから300ヤードにクリークが横たわっているので、 ドライバーを握る選手は殆どいません。 最終日は、ティーの位置が30ヤード前に設定されました。 ドライバーを握ってクリーク超えを可能とし、2オンを狙うようなセッティングです。 よりスリリングな展開を引き出す、PGAの粋な計らいです。 これほど、ティーの位置が変わるセッティングも珍しいですね。 |
アダム・スコットの人気は飛びぬけていました。 今までも高感度が高かったのですが、マスターズの優勝以来、 うなぎのぼりで人気が上がりました。 流れるようなスムーズなスイングから飛距離がでます。 温和な性格が出ている物静かなプレーぶりです。 スタイル抜群なアダムがユニクロを着れば、とってもお洒落に見えます。 ロングパターもトレードマークになりました。 |
オークヒルCCには、大きな池がありません。 しかしコース内に、小川が流れています。 1番のグリーン手前100ヤードを横切るのを皮切りに、 同じ小川が、13番のティーから300ヤード先のフェアウエー、 10番のグリーンから100ヤード地点、 11番パー3、12番のティーグラウンド、 6番パー3、5番のグリーン手前、7番グリーン手前、8番のティーグラウンド先まで続いています。 全てがコースを横切っており、戦略性を高めたセッティングとなっています。
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松山英樹プロは怪物です。 プロデビューの今年度の日本ツアーで既に2勝をあげて、賞金レースを断トツリードしています。 2011年マスターズに初出場して、見事ローアマチュアを獲得した松山英樹が、「米ツアーで戦いたい」思いを強くしたのも、最高の舞台を経験したからこその願望だったのでしょう。 1日4万人を超えるギャラリーと最高の舞台が彼に火を付けた気がします。 「世界のトップと競い、改めて自分に足りないものがわかった」のコメントを残しています。 今年の全米オープンで10位、全英オープン6位に入り、一気に米ツアーでのシード権が見えてきました。 6試合の出場試合だけで今回20位以内に入れば、125位のシード圏内に入るまでに来ているのは、類い稀な選手でしょう。 21歳の大学生にも関わらず、米国での松山選手は、臆することなく世界のトップと遜色なく堂々とプレーしています。 最高の舞台で世界のトップと競う経験から多くの事を吸収し、成長しています。 高校野球の球児が試合ごとに成長するように、若いからこそスポンジのような吸収力があるのでしょう。 前週のWBCブリジストンインビテーショナルの予選で松山選手と一緒にプレーし優勝したタイガーウッズは、「彼はたくさんの可能性をもっている。何かをつかむのは時間の問題だね」とコメントしています。 松山選手が「100ヤード以内の正確性と決め所のパッティングが課題です」とコメントしていた通りの状況が、今大会最終日の最終ホールに現れました。 497ヤードPAR4の最終ホールは、右ドックレッグの打ち上げホールで実質525ヤードあります。 距離だけでなくフェアウエーが狭く右に傾斜しており、両サイドの10センチを越えるラフに入ればパーオンは、不可能となります。 その上グリーン面はフェアウエイから5メートルも急激な高台にあります。 18ホール中、全選手のストローク平均が4.361と難易度が2番目にランクされているのも納得できるところです。 このトーナメントで松山選手も、予選2日連続で18ホールをボギーとして決して得意とするホールではありませんでした。 3日目を終わり3オーバー38位タイからスタートした最終日、3番ボギーの後、6番、10番、そして12番から15番までの4連続と6バーディを奪います。 問題の18番のティーショットをラフに打ち込み、ピンまで97ヤードのフェアウエーに出してからのショットが今までの課題であったのです。 「100ヤード以内のアプローチと決め所のパッティングが課題」と自分自身でのコメントしていた通り、5メートル打ち上げのグリーン面に対しての第3打を、距離ピッタリの2メートルに付けました。 そして決め所の最終パットを決めて、最終日を66の4アンダー、トータル1アンダーの19位でフィニッシュしました。 課題だったショットを最終ホールで決めただけでなく、念願の米ツアーのシード権も確定としたのでした。 18番奥に設置されている大型スタンドの観客から盛大な拍手を送られている松山プロを見ていると改めて「最高の舞台が選手を育てる」ことを垣間見た気がしました。
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練習施設が充実しています。 36ホールあるのだから、余裕があります。 156人のフルエントリーの選手でも大丈夫です。 予選2日間の朝のスタート時間は、7:10〜9:10、アウトとインそれぞれ13組、合計26組です。 昼からは、12:20〜14:20まで。 3人1組が52組、合計156人の世界のトッププロが参戦しています。 決勝ラウンドでは、3オーバータイまでの75人が2人1組で1番ティーよりワンウェイでスタートしていきます。 そのために、8:25分の朝1番スタートから、最終組2:55分まで続きます。
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毎日4万人のギャラリーが思い思いに全米プロを楽しんでいます。 目当てのプロを追っかけてコースを歩くだけでなく、 スタンドに陣取り定点観測や、ホスピタリティーテントで談笑するなど。 無料で配布されているイヤホンからトーナメントの実況中継が聞こえるので、 ゲームの展開が手に取るように分かります。 楽しみ方が広がる仕掛けがあちこちに見られる大会です。
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無料配布のイヤホンに加えて、携帯テレビでトーナメントを観戦することもできます。 18番のスタンドで定点観測してるボブさん。 各組がホールアウトして、次の組が来るまでの時間があります。 ストレッチを兼ねて椅子から立ち上がります。 そして手持ちの携帯テレビでトーナメントの実況をチェックします。 目の前の生プレーと携帯テレビがトーナメント観戦を盛り上げます。
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練習日は、各ホールでジュニアたちがサインをねだります。 プレーヤーは、あらかじめポケットにサインペンを持参しています。 ジュニアたちは、記念ピンフラッグなどを持参しています。 サインだけでなく、カメラもOKなんです。 練習日でも1万人を越えるギャラリーが駆けつける理由があるのですね。 |
オークヒルCCの18番(497ヤードPAR4)は、平均4.377で難易度2番目です. 難易度1番が17番(509ヤードPAR4)、平均スコアー4.429. したがって上がり2ホールでスコアを崩す選手が少なくない。 18番は、手前から5ヤード以上急激な砲台グリーンになっています。 その後ろには、巨大スタンドがあり、多くのギャラリーが一日中、陣取っています。 ナイスショットへの歓声だけでなく、 選手が来るたびに惜しみない拍手が贈られます。 ちょうど舞台に上がってくる演者に拍手を贈るように。 最高の舞台が選手を育てるような雰囲気がありました。
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今年の全米オープンに続き、全米プロで優勝に手が届かなかったジム・フューリック。 最終日にトップでスタートしていながら、最終2ホールを連続ボギーで万事休す! 最終ホールでの表情をみていると、全てを物語っているようです。 「ジェイソンがチャンピオンに相応しいプレーをした」とインタビューでは、優勝者を称えました。 インタビュー後も、最後までサインに丁寧に応じている姿は、 いつも変わらない紳士なフューリックの人柄でありました。
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